芸術と観光 架橋し学ぶ
芸術文化観光専門職大学

新しい県立大学、但馬に誕生

 芸術文化観光専門職大学(ProfessionalCollegeofArtsTourism)=略称CAT=は、2021年4月に開学した四年制の県立大学だ。芸術文化・観光学部、同学科の1学部1学科を置き、国公立大学としては初めて、演劇やダンスを本格的に学べる。初代学長には日本を代表する劇作家平田オリザさんが就任し、第一線で活躍する実務家教員もそろった。「芸術文化」と「観光」、異なる二つの視点を架橋して学び、地域を元気にできる人材育成を目指す。

芸術文化分野 劇場の企画運営に注力

観光分野 観光資源の豊かさ強み

授業の様子。芸術文化観光専門職大学の全ての学生は「芸術文化」と「観光」両分野を学び、二つの視点を生かしながら専門性を深めていく  芸術文化観光専門職大学では、全ての学生が「芸術文化」と「観光」の両分野を学び、それぞれを「架橋」しながら専門性を深めるのが特長だ。学びの土台には、演劇的手法による「コミュニケーション教育」を学ぶ。学生は自分の能力を生かしながら、他者を支え、異なる意見や全体をまとめ上げていく能力を磨く。
 「芸術文化」分野では、日本には今まで、パフォーミングアーツの演劇とダンスを学べる大学はなく、両方を学べる場ができた意義は大きい。進路には俳優や演出家、舞台制作家なども想定されるが、藤野一夫副学長は「演者を支えるアートマネジメントを学べることも強調したい」と話す。
 アートマネジメントは、劇場やホールなどの企画運営を通じて作品を社会に広め、「文化が持つ力を社会に広く開放し、社会を生き生きと活性化する」こと。日本には文化施設が多いが活用ノウハウを持つところは少ない。 学内(ラーニングコモンズ)の様子 学生には、視点をしっかり学び、社会で活躍してもらいたいという。
 「観光」分野の実務家教員高橋伸佳准教授は、「但馬地域はヘルスケアや海山をはじめ観光地の要素が全てそろい、芸術文化の発信基地もある」と魅力を語る。異分野を架橋しての学びは教員も初めてだ。学生にも「思い切り迷いながら、いろんな進路を考えてもらいたい」と期待する。「新大学は真っ白なキャンバス。まだ学問体系がない新分野への挑戦に対し、一緒にわくわくしてくれる学生に集まってほしい」と話す。

地域リサーチ&イノベーションセンター

地元や企業と連携、協働 学生発案のプロジェクトも視野

RICと企業の実証実験第1号 電動3輪自転車の引き渡し式。新しい乗り物が生活や観光にどう役立つかを探るプロジェクト。「地域リサーチ&イノベーションセンター」が企業と取り組む実証実験第1号となった。  芸術文化観光専門職大学の玄関には、大学と地域をつなぐ学内組織「地域リサーチ&イノベーションセンター(RIC)」がある。同大の教員らが、地元自治体や住民、企業と協力して課題解決などに取り組む際、窓口や調整役を担う組織だ。
 地域を元気にできる即戦力の育成を目指す同大学では、従来の大学以上に実社会と大学のつながりが重要だ。同大でも「地域と地続き」であることを重視している。RICセンター長の川目俊哉副学長は、「学生には、大学で学ぶ知識や情報だけでなく、それを実際の社会でどう生かすかまでを学ぶ〝知恵〟を身に付けてほしい。新しい学びの形だ」と強調する。
 開学からまだ2カ月だが、既に2例のプロジェクトが始動。企業が開発した今までにない交通手段の活用策を探る試みと、同大のコミュニケーション教育を但馬地域の高校で実施する試みだ。現在、実施を検討するリストにも、15近い案が控えている。入学したばかりの1期生も授業の一環で参加しているほか、今後は学生発案によるプロジェクトも始められるよう、準備が整えられている。
 プロジェクトでは「芸術文化」と「観光」、さまざまな得意分野を持つ教員らがチームを組み、課題解決に取りかかる。川目副学長は「教員たちの専門知識がかけ算されていく。学生にとっても、いろんな視点を目の当たりにすることができ、学びを深めることができる」と力を込める。

講堂兼劇場は220人収容

小劇場やスタジオ 大道具制作室も

講堂兼劇場。舞台と観客席を移動や収納ができ、フラットにしてダンスの授業も可能だ 校舎の中心部にある「講堂兼劇場」(最大220人収容可能)は舞台と観客席を移動や収納ができるタイプ。フラットにしてダンスの授業で使用したり、舞台を設けて演劇公演をしたりできる。照明や音響など機材の操作を学ぶ授業もある。
 特にバックヤードが特徴的だ。楽屋だけでなく、学生たちの稽古などに使用できる「小劇場」、レッスンバーが設置された大小2カ所の「スタジオ」。外から直接搬入できる扉があり、さまざまな工具がそろう「大道具制作室」や「小道具制作室」、ミシンなどが置かれた「染物衣装制作室」などと、舞台を一から作り上げるための設備がそろっている。 講堂兼劇場の床から天井部を見上げると、照明設備も充実していることが分かる
 観賞するだけではなく、稽古場や制作室などがあり、創ってすぐに発表できる〝創造型〟の劇場で、舞台美術専門の杉山至准教授は「日本は貸館が多いが、欧州のように創造活動の場になることを意識した」と強調する。
 屋外でも公演できるように分電盤などが整備され、校舎正面入り口横の「学術情報館」の大階段は観客席にもなるなど、余裕のある校舎内の空間を学生たちが自由に活用し、表現の場に様変わりする。 キャンパスに併設している学生寮は4人1部屋
 1年目は全員寮生活を送る。学生寮は学舎に隣接しており、日中は管理人が常駐。4人1部屋で、各個人の寝室の他に、共有のキッチンやリビングがあり、階ごとに共有のスペースがある。ランドリールームも完備。
 1階の交流室では学生が主体となって運用ルールをつくり、映画観賞会などを企画している。

学長に聞く

「自立」「協働性」育てる

平田オリザ学長
―教育理念は。

 「自立」した学生を育てます。学生が将来、起業したり、劇団をつくったり、就職した先で社内転職をしても耐えられるような人です。もう一つは、一見相反するように思えますが、「協働性」です。リーダーシップだけでなく、フォロワーシップも大事。本学では1年生は全員寮で生活し、自分たちでルールを決めて自治組織で運営していきます。
 入試でも、グループワークやディスカッションで、自分の意見を言う、聴くだけでなく、折り合いをつけて結論を出していくということが主眼になります。自立した個人がそれぞれの特色や強みなどを融合し、さらに価値を高めていくというのが協働性です。

―芸術文化と観光を一緒に学ぶ意義は。

 コロナ前のインバウンド増加の最大の外的要因は、円安と東アジアの経済発展ですが、最初の旅行先として、近くて安全な日本が選ばれました。2回目以降も来てもらうには、富士山を何度も見たいという人はいないので、スポーツや食を含めたコンテンツが重要です。特に日本が弱い部分が、夜の時間帯のアミューズメントで、家族で楽しめるミュージカルや、落ち着いてカクテルを飲みながらジャズを聴けるなど、観光客が安心して楽しめる時間と場所を提供するための仕組みが重要です。これを芸術文化観光と定義付けて学びます。

―受験生に向けて一言。

 但馬というさまざまな可能性を秘めた場所で、4年間、芸術文化と観光を学ぶという、とても豊かで、当たり前ではない経験をしたい人にぜひ来てほしいです。地域のニーズを掘り起こし、自分で切り開けるような人材を育成したいと思っています。

在学生からのメッセージ

知識、対話する力付く

芸術文化・観光学部1年 高木沙羅々さん

 高校から携わっていた演劇を通して、生まれ故郷を元気づけたいと考えていました。社会貢献と経済活動のバランスなどを学びたいと受験しました。
 授業では驚きの連続ですが、知識とともに、対話する力が付くと思います。今は自治会やサークルを一からつくっている最中。私は学内の劇場を、どのように運営していくかを、学生や先生と話し合いながら考えています。
 先生は対等に接してくれ、学長を含め、「さん」付けで呼んでいます。意見を言い合い、認識をすり合わせて、みんなで一つのことを深めていくということが日常的に行われています。教職員と学生でおもしろい大学をつくっているので、受験生の方にも思い切って飛び込んできてほしいです。

掲示板

大学からのお知らせ

「オープンキャンパス」
【開催日】
7月23日(金)
9月12日(日)
9月19日(日)
 本学の大学紹介及び模擬講義を体験できます。併せて「進学個別相談会」も開催します。是非ご参加ください。
【問い合わせ】
教育企画課TEL0796・34・8125
詳細は上記の番号にお問い合わせください。

大学概要

住所 豊岡市山王町7の52
アクセス JR豊岡駅より徒歩7分
学部(本年度定員) 芸術文化・観光学部(芸術文化・観光学科80人)
教員 教授11人、准教授4人、講師10人、助教6人、助手1人
在学生 84人(6月3日現在、1回生のみ)
ホームページ https://www.at-hyogo.jp/

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