建学の精神である「キリスト教に基づく全人教育」とスクールモットー“Mastery for Service”(奉仕のための練達)に基づいた教育理念が浸透する関西学院大学。この理念を具現化する「ハンズオン・ラーニングセンター」が2017年4月に開設された。同センターでは「キャンパスを出て実社会を学ぶ」をテーマに、学内では得られない気付きによって学ぶ意欲を高め、学生の成長を促すサポートを行う。
朝来市の地域振興策をテーマにしたフィールドワーク=竹田城
「ハンズオン」は「実践的な」を意味し、主に1、2年生を対象に、所属する学部にとらわれない実践・体験型のカリキュラムを開発、提供する体制を整え、“Mastery for Service”が意味する「実社会で求められる能力を身につけ、社会変革に貢献する」人材の輩出を目指す。
14年度に関学大が「スーパーグローバル大学創成支援(SGU)」に採択されたことが設立のきっかけとなった。「大学のグローバル化とは単に海外で学ぶことを意味するのではない。日本の文化や地域社会が抱える現状を知るなど国内外往還型の学びによって初めてグローバルに物事を見る視座が定まる。そのための学びの機会をつくることがセンターの目的」と同センターの永嶋恒治担当課長は説明する。
狙いは三つ。まず「視野の拡大、視座の確立」だ。入学間もない時期から多様なテーマでの学びを通じて、視野を広げ、視座を定めることを目指す。二つ目が「徹底した思考、言語化の鍛錬」。現場での実践的な学びを通じ、自らの思考を言語化する作業を徹底的に行うことによって考えを深める。三つ目が「主体的、能動的、継続的な学修者の育成」。現場での気付き、驚きからさらに深く学びたいという意欲につなげ、将来にわたって学び続ける力の養成を目指す。「学ぶモチベーションは入学当初が最も高い。鉄が熱いうちに打つことで3年生のゼミが始まるまで学びの意欲を勢いづかせることができれば」と話す。
広島や長崎を訪れて平和について考える「平和学」の授業もある=広島、原爆ドーム
カリキュラムは四つの類型に分けられる。「地域で学ぶ、地域に学ぶ科目」では、「天空の城」として知られる、朝来市竹田城の城下町の地域振興策や、篠山市における地域コミュニティーの維持の可能性を考える授業などがあり、いずれも地域の現場に出向いて、見て、聴いて学ぶ。「普遍的な社会課題を探究する科目」では、広島を訪ねて平和について考える「平和学特別演習」の授業などがある。「キャリアデザイン、企業・行政との連携科目」では、中央省庁、会計監査法人事務所、県内企業などの組織や仕事を知ることを通じて働くことの意味・意義などを考える。また「インターンシップ関連科目」の目玉は1カ月の「ハンズオン・インターンシップ実習」で、長期間企業の現場に身を置くことで将来を深く考えるきっかけにする。
「新しいことをするのは怖いものだが、経験がそれをカバーしてくれる。ハンズオンでの学びを通じて、社会の課題にチャレンジする人間を育てていくことができれば」と永嶋氏は話す。
篠山市・今田地区でヒヤリング調査を行う学生ら ハンズオン・ラーニングセンターで本年度から始まった「地域で学ぶ、地域に学ぶ科目」の一つ「社会探究実践演習Ⅰ(篠山・今田コミュニティ・ガバナンス)」では、篠山市・今田地区をフィールドにそこで暮らす人たちとのコミュニケーションによって得られる「深い体験」を通じて地域の魅力や課題を浮き彫りにし、地域社会とのかかわり方を身につけることを目指している。
篠山市・今田地区でのフィールドワークの総括を行い、地域の現状と課題を明らかにする
取材の日の授業は、前週末に全員がフィールドワークで訪れた今田地区のヒアリングを総括するところから始まった。一人の学生が発表し、不明だったところは他の学生が補完し、振り返りを行う。そのうえでヒアリング結果を事実と意見に分けて現状と課題を明らかにしていく。
この授業を担当する同センターの木本浩一教授は「教員の役割はペースメーカーのようなもの。学生が主体になってすべて進めてもらう。探究のテーマについても私は一般的な問いかけをするだけで、学生一人ひとりが具体的なテーマを設定するという形をとっています。学生が主体的に学んでいる感覚を持ち、自らの成長を実感してほしい」と授業の狙いを語る。
実習を受ける学生に、その準備として用意しているのが「社会探究入門」だ。現場を踏んでどのような視点で物事を見て、聴いて、感じたことをどう表現するかといったいわば知的基礎体力をつける場だ。
同センターの奥貫麻紀准教授の授業では、テキストを読みながら毎回の授業で、紙面を2分割したノートの一方には事実、情報を書き込み、もう一方には自分やグループが気付いたことやアイデアを書かせている。その時に重視している一つが「常識からの自由」だという。フィールドで「現地、現物、現実」に向き合うと、自分が考えていたことがことごとく裏切られることがある。そこで入門の授業では「常識」にとらわれたものの見方や考え方を問う作業を行い、自分の思考や方法論を言語化していくという。また、自分たちの考えていることがどのような立場の人にも伝わりやすくするように思考のプロセスを視覚化して表現するトレーニングも欠かさない。「現実を見て物事を考え、それをしっかり伝える訓練を積むことで、自分がそこで何ができるのかを考えられるようにしたい」と話す。
実習を受けた後、現在入門を受講している人間福祉学部3年生の江崎貴久さんは「入門では事実を自分の中で受け止めてから考えることを学んだ。書く訓練を反復することで深い学びになり、いろいろなところで学んでいることが線でつながることが増え、さらに学びたいと思えるようになった」とさらなる学びへの意欲を新たにしている。
村田治学長
―どのような学生を育てていこうとしていますか。
経済協力開発機構は2030年における教育の基本的な目標を「行動を起こす力」とし、その前提として「態度」や「価値(観)」を重視しています。つまり価値観を含めた人間性、それに基づいて自律的に学び、行動する力が世界で求められていくと思います。この資質はまさに本学の建学の精神である「キリスト教に基づく全人教育」に極めて近いもので、スクールモットー〝Mastery for Service〟(奉仕のための練達)とともに堅持しながら、新しい時代に合った教育方法を常に考えていきます。
―具体的な取り組みは。
本学は14年に文部科学省から「スーパーグローバル大学創成支援(SGU)」に採択されました。グローバル人材の要件を「主体性」「タフネス」「多様性への理解」と定義し、そのためにダブルチャレンジ制度を設けました。主専攻のほかに、留学などの「インターナショナル」、専攻以外の学問を学ぶ「副専攻」、そして実践的な教育である「ハンズオン・ラーニング」のいずれかを並行して取り組みます。二つのことに同時に取り組んでいくことで新たな発見をし、学びへのモチベーションを高めてほしいと期待しています。
―ハンズオン・ラーニングセンターが今年開設されました。
キャンパスを出て実社会を学ぶためのプログラムを学生に提供します。実践的な学びを通じて、自らの課題に向き合う学習姿勢、思考、方法論を身に付けるプログラムを構築します。問題発見型の思考を養い、自身の可能性を広げてほしいと願っています。
高校時代からホームレスの方を支援するボランティアを続けており、スクールモットーに共感した関学を選びました。2年次は「平和学特別演習」で広島を、「社会探究実習」で呉・江田島を訪問。江田島では特攻を研究し、戦時中の若者が死と隣り合わせで生きていた様子に触れ、改めて「生きる」ことの尊さを痛感しました。さらに深めようと、今はハンズオン・ラーニングセンターの「社会探究入門」で考え方、表現を学んでいます。自分を成長させるきっかけが関学にはたくさんあります。将来は社会につながる仕事に就きたいです。
住所 | 西宮上ケ原キャンパス=西宮市上ケ原一番町1の155 西宮聖和キャンパス=西宮市岡田山7の54 神戸三田キャンパス=三田市学園2の1 |
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アクセス | 西宮上ケ原=阪急甲東園駅徒歩12分、阪急仁川駅徒歩12分 西宮聖和=阪急門戸厄神駅徒歩13分 神戸三田=JR新三田駅から直行バス15分 |
学部(本年度定員) | 神学部(30人)、文学部(770人)、社会学部(650人)、法学部(680人)、経済学部(680人)、商学部(650人)、人間福祉学部(300人)、国際学部(300人)、教育学部(350人)、総合政策学部(590人)、理工学部(700人) |
教員 | 教授486人、准教授133人、講師87人、助教56人 |
在学生 | 2万4180人 |
ホームページ | http://www.kwansei.ac.jp/ |
日程 | 7月30日(日)、8月5日(土)・6(日)、10月21日(土)、3月24日(土) |
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時間 | 午前10時〜午後4時 |
お問い合わせ | 入試課 ☎0798-54-6135 |