大学の学び 新たな挑戦
飛び込み選手 寺内 健さん

宝塚市を練習拠点に競技生活を続ける寺内健さん。2021年夏に開かれた東京オリンピックで、最初に出場した1996年のアトランタオリンピックから数えて6回目の五輪出場を果たした。これまで30年超に及ぶ長い競技生活を続けられた土台の一つには「大学時代に学んだ心理学に助けられている部分が大きい」と話す。

心理学 競技に生かすため 

―甲子園大学に入ったきっかけは。
 小学校5年生の時に水泳から飛び込みに転向し、高1でアトランタ五輪に出ました。大学進学時は、2000年開催のシドニー五輪に向けて、どう自分を高めていくかというタイミングでした。練習拠点が宝塚だったこともあり、まずはそこから近いこと、そして心理学を自分の競技に生かしたいと思い、心理学部のある甲子園大学に進学しました。

―大学生活はどうでしたか。
 人間の心理を知ることが楽しく、心理学の実験には積極的に参加しました。練習がハードだったので、大学に通い、友達と話をし、勉学できる時間は自分にとって癒やしの時間でした。大学2年の時に出場したシドニー五輪では5位入賞(オリンピック高飛び込みで日本人最高位)を果たすことができました。秋の学園祭には、シドニー五輪が終わった後に参加することができました。合宿で中国に行っていた経験があったので、友達と本場仕込みの水餃子(ギョーザ)を作ろうということになり、屋台で振る舞ったのも楽しい思い出です。そして翌01年に福岡で開かれた世界選手権では3位を獲得することができました。

2006年、カタールのドーハで行われたアジア大会でも銅メダルを獲得した

―学んでいた心理学は競技に役立ちましたか。
 より良いパフォーマンスを発揮しようと思うと、つい自分が成功した時のことを考えたくなるものですが、ネガティブなことを意識しているから、ポジティブに考えたくなるものだということを知りました。悪かった時のことを考えることが、結果的にポジティブにつながるということを学びました。当時、コーチから「健が自分で目標を決め、そのためにどうしていけばよいのかを、自分で考えないと、さらに上を目指すことはできない」と言われ、コーチとよりコミュニケーションを取りながら、自分でスケジュール、トレーニングを考えるようになりました。頭の中でイメージできたことは、絶対実現できるという心理学での学びを生かし、さらに前に進むことができました。

―大学院に進学されました。
 ゼミの先生に勧められたのがきっかけです。競技生活との両立に悩みましたが、先生から「修士論文はこれまで自分が競技と向き合ったことを書けばいい」と言われ、過去の自分がどのような目標を掲げ、そこに向けどう努力をしてきたのか客観的に振り返る機会になり、その後の競技生活に役立ちました。


世界選手権、7度目の五輪照準

―社会人になって、いったん競技から引退されたのですね。
 アテネ五輪(04年)が終わった段階で、次の北京五輪(08年)で引退しようと決めていました。2年間のサラリーマン生活は、それまでの競技生活で培った目標の立て方を生かすことができた一方で、自分のことだけでなく組織の中で自分を俯瞰(ふかん)することもできました。サラリーマン生活をずっと続けるつもりでいたのですが、今しかできないことを考えた時、「届かなかったメダルにもう一度、挑戦したい」という思いが湧いてきて、競技に復帰しました。

―そして迎えた東京五輪。6度目のオリンピック出場を果たしました。
 30歳を超えても競技生活を続けさせてもらっている周囲の支えにも感謝し、結果を出して応えたいという気持ちも強く持ってきました。ただ、コロナ禍で2年間大会に出ることができずモチベーションを維持するのは難しかったです。その中で、予選通過も難しいと思っていた個人は決勝に進出することができ、シンクロでは5位に入賞することができました。

―競技後にはスタンディングオベーションが沸き起こりました。
 最後のパフォーマンスで失敗してしまったのですが、これが最後のオリンピックの舞台かな、という気持ちもあり、深く一礼しました。その後、コーチに「すみません」と謝りに行った時に、コーチから「この拍手を見てみろ。これまで頑張ってきた証しだ」と言われました。選手冥利(みょうり)に尽きる出来事でした。

―今後は。
 もともとは40歳になる東京五輪で引退と思っていたのですが。3位を獲得した思い出の地、福岡での世界選手権に出場する41歳まで頑張ろうという気持ちになっていたところ、その大会も23年に延期されることになりました。技術については衰えた感覚はありませんし、そこを目指そうという気持ちがあります。世界選手権は、おのずとパリ五輪(24年)の選考会になると思うので、結局7回目の五輪に挑戦している自分がいるな、と。

―年齢との闘いはどのように感じていますか。
 若い時のように、練習した分、ぐんぐん伸びることはありませんが、一つでも昨日よりよくなったと思えることがあればいいと思っています。以前は練習ばかりで伸びることを考えていましたが、今は違う競技や、ウエートトレーニングの中から学ぶこともあり、自分を伸ばすための選択肢が広がりました。

―最後に高校生にメッセージを。
 今でも大学時代に学んだ心理学に立ち返る時があり、競技生活に生かすことができています。大学では、小中学校で学ぶのとは全く違うことを学ぶことになります。それを難しいと捉えるのではなく、新しいことを知ることができるチャンス、新しい挑戦だと思って楽しんでください。


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