神戸大学
「総合知」で課題を解決
神戸大学は「人文・人間科学系」「社会科学系」「自然科学系」「生命・医学系」の4領域で、11学部15大学院などを展開する。「医学系研究科」の設置などの時代のニーズに合わせた組織改革や、強みを結集した「デジタルバイオ・ライフサイエンスリサーチパーク」を通じてスタートアップ企業を支援し社会課題を解決する。傑出した知と有能な人材を創出し、社会に貢献できる総合大学を目指す。
大学院 医学系研究科へ改組
コロナ禍の教訓踏まえ

神戸大学大学院保健学研究科長 石田達郎氏
組織の改編を進める神戸大学は、2026年4月に大学院の「医学研究科」と「保健学研究科」を統合し、公衆衛生学の専攻も加えた新たな研究科「医学系研究科」の設置を予定している。新型コロナウイルス流行などの経験を踏まえ、医師や看護師など職種の壁を越えて保健医療分野の課題に幅広く対応できる人材を育てる狙い。
コロナ禍では当初、マスク着用の是非や感染症疑い患者の受け入れなどで専門家の間でも意見が分かれ、医療だけでなく日常生活や経済活動にも混乱が生じた。また、1995年の阪神・淡路大震災発生時には、医師が専門の診療科以外で緊急対応する重要性が指摘されていた。石田達郎保健学研究科長は「コロナ禍に医療の専門家は建設的な情報発信ができたか、職種や所属団体の利益代表になっていなかったかという疑問や反省から、あらゆる社会課題に対応できるような組織改革を検討してきた」と話す。
「公衆衛生学」加え横断的に

来春「医学研究科」との統合が予定されている「保健学研究科」の学舎
その結果、医学と保健学を別々に学んだり、プロジェクト単位の部局連携にとどまったりしていた旧来の縦割り型教育を再考し、両研究科を統合。26年からの博士課程前期課程では、二つの研究科がそれぞれ行ってきた「医学」「保健学」「医工学」に、病気の予防や社会の健康などを学ぶ「公衆衛生学」を新たに加えて、四つの研究分野を横断的に学べるよう改めた。そして、博士課程後期課程にも、「公衆衛生学」の専攻を新たに設けグローバルな視野をもった医療者や研究者を養成する。
組織改編の背景には近年、その重要性が認識されている「総合知」の視点がある。総合知とは全体を俯瞰(ふかん)して「専門知」をつなぐ力、多様な他者とつながる力を指す。「医療の課題は山積し、大学も改革を迫られている。専門知と総合知を両輪に、専門職の壁を越えてあらゆる課題の解決に対応できる人材を育成し、社会に貢献できる大学として歩みを進めたい」と石田研究科長。
進路は医療機関だけでなく、世界保健機関(WHO)といった国際機関、国や県などの行政機関で、公衆衛生施策を主導する人材育成も視野に入れる。石田研究科長は「新たな研究科では、常に公的な視点で解決法を考える。次のパンデミック(世界的大流行)や南海トラフ巨大地震に備え、予測不可能な未知の事象に対応できる人材を育成したい」と話している。
デジタルバイオ・ライフサイエンスリサーチパーク(DBLR)
グローバル・イノベーション・キャンパス目指し
バイオ、先端膜工学など社会実装へ

「バイオものづくり」研究の様子
少子化が止まらず国内の大学が苦境の時代を迎える中、研究総合大学の強みを生かして意欲的な取り組みを進めている。大学の英知を結集させた「デジタルバイオ・ライフサイエンスリサーチパーク(DBLR)」で生み出される技術のシーズ(種)を、社会実装につなげて未来社会に向けた新たな課題を解決。大学全体を世界トップレベルの「グローバル・イノベーション・キャンパス」に変革させる将来像を描いている。
2021年の藤澤正人学長就任以来、「知と人を創る異分野共創研究教育グローバル拠点」をビジョンに掲げ、さまざまな改革を進めている。その核となるのが22年に開設した「バイオものづくり」「先端膜工学」「医工学」「健康長寿」「社会システムイノベーション」という5分野の英知を結集させた拠点群DBLRである。DBLRを中心に、広島大や理化学研究所、シンガポール国立大学など国内外の大学や研究機関とも連携。温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」や健康や幸福を追求する「ウェルビーイング」といった異分野共創研究の推進▽デジタルトランスフォーメーション(DX)・自動化の研究環境を全学普及▽研究成果から新分野の事業を創出するスタートアップ企業の継続的創出▽神戸市と連携して地域産業をグローバル展開―などに取り組んでいる。
大学発スタートアップ117社に
DBLRは大学の知を生かし、外部からの資金を獲得して研究・教育の強化、さらなるスタートアップ企業の創出につなげ、大学と社会との間で「知」「人材」「資金」が好循環する経営成長戦略モデルの確立を目指す。25年4月時点の神戸大学発スタートアップ企業は、自然科学や医学、生命科学分野などの117社。20年創業のバッカス・バイオイノベーション(神戸市)は、スマートセル(物質を大量生産できるように遺伝子を変化させた細胞)の開発を通じて「バイオものづくり」の社会実装に向けた取り組みを進めている。
これらには5年間で最大55億円程度が助成される、文部科学省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J―PEAKS)」に選定されるという追い風も吹いた。24年度の事業スタート以降、ポートアイランドで拠点となる支援施設の整備が着々と進み、スタートアップ企業創出の加速化や地域雇用増加も見込まれる。今後は国の科学技術力向上と地域の経済活性化を図りながら、取り組みをDBLRから大学全体へと展開することでグローバル・イノベーション・キャンパスへの変革を目指していく。
学長に聞く
地域社会と世界に貢献
―教育・研究の特色は。

藤澤正人学長
11学部15研究科に約1万6千人が学ぶ総合大学で、特色を持った各領域が連携し独創的で学際的な教育を行っています。全学部の1年次に数理、データサイエンス、人工知能(AI)の基礎を学ぶなど、専門性を高める一方で横断的な学びにも注力し、多様な引き出しを持つことで社会に出たときに役立つ教育プログラムを構築しています。また「知と人を創る異分野共創研究教育グローバル拠点」を長期ビジョンに掲げてさまざまな改革を進めており、世界トップレベルの研究ができる「地域中核大学」として地域社会と世界に貢献することを目指しています。
―目指す方向性は。
「バイオものづくり」「先端膜工学」「医工学」「健康長寿」「社会システムイノベーション」という本学の強みを結集し、2023年に設置した「デジタルバイオ・ライフサイエンスリサーチパーク推進機構(DBLR)」。DBLRを中心にイノベーション創出と社会実装を進め、地元自治体など外部機関との連携を深めながら地域産業の活性化を図る考えです。さらにこうした取り組みを通じて、神戸大学全体を「グローバル・イノベーション・キャンパス」へと変革させる狙いです。
―受験生にメッセージを。
若い皆さんが成長する過程で失敗や挫折を経験しても、大切な機会と前向きに捉え、さまざまなことに挑戦すれば、長い人生にきっと生かせるはず。失敗を恐れて何もしないことこそが、最大の失敗です。学びたいことを見つけ、出会う仲間や教員とともに夢に向かって挑戦しましょう。神戸大学はいつも愛情と優しさを持って皆さんに寄り添い、ともに未来を創ります。
在学生からのメッセージ
ウイルスの変異を研究
農学部 資源生命科学科4年 大道彩香さん

新型コロナウイルスの流行を機に、極めて小さな生物が生態系に大きな影響を与えることに興味を抱きました。現在、ウイルスの研究室でその変異を調べる研究をしており、将来は研究者として謎の多いウイルスの性質を明らかにして、予防法を発明できたらと考えています。
11学部ある神戸大学は他の国公立大学より学びの幅が広く、海洋政策科学部など珍しい学部もあり、文理融合のさまざまな授業が受けられて多様な視点を持つ友人とも出会えます。国際教育にも熱心で私は自分の英語力を試してみたくて農学部主催のプログラムで3週間、フィリピンに留学しました。
また、演劇部で役者や広報などを担当しています。学業との両立は簡単ではありませんが、公演が成功したときの達成感は、何にも代えがたいです。
大学概要
| 住所 | 六甲台=神戸市灘区六甲台町1の1 楠=神戸市中央区楠町7の5の1 名谷=神戸市須磨区友が丘7の10の2 深江=神戸市東灘区深江南町5の1の1 |
|---|---|
| アクセス | 六甲台=阪急電鉄六甲駅、JR六甲道駅、阪神電鉄御影駅から市バス36系統「鶴甲団地」行き |
| 学部 (2026年度定員予定) |
文学部(100人)、国際人間科学部(370人)、法学部(180人)、経済学部(270人)、経営学部(260人)、理学部(153人)、医学部(288人=医学科113人、医療創成工学科25人、保健学科150人)、工学部(443人)、システム情報学部(150人)、農学部(160人)、海洋政策科学部(200人) |
| 教員 | 教授577人、准教授393人、講師137人、助教433人、助手33人 |
| 在学生 | 11543人(学部生のみ、5月1日現在) |
| ホームページ | https://www.kobe-u.ac.jp |
