▽まつなが・けー・さんぞう 1980年茨城県生まれ。西宮市育ち、在住。関西学院大卒。会社員の傍ら2021年に群像新人文学賞優秀作「カメオ」で小説家デビュー。24年「バリ山行」で芥川賞を受賞した。「オモロイ純文運動」を掲げ、純文学を広げる活動をしている。

大いに期待し全力で挑戦を
小説家 松永K三蔵さん
(関西学院大学文学部卒業)

「バリ山行」で2024年第171回芥川賞を受賞した松永K三蔵さんは、中学2年生の時から小説を書き続け、大学は関西学院大学に進学し、卒業後は創作が続けられる場所を求めて転職を繰り返した。生きるとは何か、人間とは何か。小説が人々に寄り添うことのできる価値を信じ続け、今日も書き続けている。

専門的な文学研究志す

―関西学院大学に進学した経緯は。
 地元であったこともありますが、受験前に訪ねたキャンパスを見て、学びの環境の良さに強く引かれました。
 中学校2年生の時、母に薦められたドストエフスキーの「罪と罰」を読んで以来、小説家を志し、大学で専門的に文学研究をしてみたいという希望もありました。

―大学での学びはいかがでしたか。
 ゼミで坂口安吾を研究しました。さまざまな評論や研究書に触れたことで、一つの作品について多様な解釈の仕方があることを知り、作品の持つ豊かさをより感じることができました。
 思想や哲学も好きなのですが、関学には神学部があり、そのカリキュラムの授業を受講できたのはありがたかったですね。

―在学中、他に取り組んだことはありますか。
 絵を描くことも好きなので、デザインのサークルに入って、今では東京でプロとして活躍する劇団のポスター制作を手伝ったりしていました。デザインはそれを見る人の視点から構図のバランス、色の配色などを考えますが、それは小説も同じで、読む人の視点でバランスやリズムを考えます。絵を描くこと、小説を書くことは相互に通じ合っていると思います。

大学生時代。サークル仲間と訪れた与論島にて

友達は財産、つながり今も

―入学前にキャンパスに引かれたとのことでしたが。
 甲山を背景にした時計台と中央芝生、通称「中芝(ちゅうしば)」の景色は大好きでした。入学してからも、授業の合間に中芝に行くと、だれかがいて、そこで友達としゃべったり、友達を介して新しい知り合いができたり、中芝は人のつながりを生むハブ(拠点)のような場所でした。学部、ゼミ、デザインサークル、演劇や映画作りをしている仲間とも幅広く付き合っていました。当時の友達は今もつながっていて自分の財産になっています。

―就職についてはどのように考えていたのですか。
 就職活動の前に、キャリアプランを作るというものがありました。就職先を考える上で、自分の将来を見据えて計画を立てようというものです。私も書いてみたのですが、そこで思ったことは「絶対にこの通りにはならないな」ということでした。どうせ計画通りにはならないのだから、とにかく飛び込んでみようと思いました。
 小説家になるという目標はぶれずに持ち続け、書くことを優先するために今でいうワークライフバランスや、学びがある場で働きたいと思っていました。

第171回芥川賞を受賞した作品「バリ山行」

―その後、どのような生活を送っておられたのですか。

 もちろん思ったようにいかず、ワークライフバランスどころか、生き残るためにただ必死でした。会社に腰を据えて、仕事をしながら小説を書きたかったのですが、勤め先の業績悪化など、辞めざるを得なくなることが度々あり、いろいろ会社を転々としました。やっと30代の半ばくらいからは、自宅から最寄りの駅まで歩く時間に小説のアイデアや文章を考え、7時から9時までカフェで原稿を書くというルーティンが確立できました。

―今後はどんな小説を書いていきたいですか。
 やはり「オモロイ純文学」を書いていきたいですね。
 私が考える純文学は、人間とは何か? この世界は何なのか? といった本質的な問いについて書かれているものです。そういう問いは誰もが思春期に一度は考えることですが、社会に出て多忙な生活の中でいつしか忘れてしまいます。
 ところが、何か大きなショックに直面した時などに、あらためて突きつけられる問いでもあります。それに答えは出せませんが、寄り添えるのが純文学だと思っています。難しい哲学書や思想書でなく、多くの人が面白く楽しんで読める「オモロイ純文学」を書いていきたいと思っています。

―大学進学を目指す人たちにメッセージを。
 20代の頃から文芸誌新人賞に応募していましたが、もちろん正解があるものではありません。デビューにも長く時間がかかりました。私はただ自分が本当に書きたいものを、自分の書き方で書いてきました。それが結果的に芥川賞につながったのかもしれません。
 やりたいことがないという人、あるいはあっても現実的じゃない、無理だという周囲の声や自身の不安から諦めてしまっている人、そんな人は多いのではないでしょうか。良くも悪くも人生は考えた通りにはならないものです。期待すると失敗した時のショックが大きいからと避けたくなる気持ちも分かります。ですが、大いに期待して挑戦し、思い切りぶつかってみてください。もちろん成功することもあれば、失敗することもあります。
 本気でぶつかれば、失敗してもまた立てます。火花が散るほどぶつかれば、その火花が次を照らす光になると思います。
 大学生活は、いろんなことに大いに挑戦できる最高の機会です。多くのことに挑戦し、飛び込んでほしいと思います。


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